August 11, 2012


Counter Intelligence: Shunji is no ordinary sushi bar

カウンターにみたされる、食の知性:Shunjiは普通の寿司バーではない

By Jonathan Gold Los Angeles Times Restaurant Critic

中尾俊二によるShunji Japanese Cuisineは、まるで大きなチリボールのような不思議な建物の中にあるが、高級感溢れ独創的で、また野菜に格別な配慮をしたレストランだ。


写真:(右から)紫芋とブルーチーズのお団子干し柿載せ、 アン肝のキャビア添え

ロサンゼルスでおいしい日本料理を食べたいならば、定番は寿司、そして蟹の手巻きずしが最後にでてくるものだとだれもが思う。だが、『松久』のNOBUの影響を受けてる我々なら、セビーチェやスパイシーツナがでてくるだろうと思うし、入った先がモダンな寿司バーなら、牡蠣やサラダもでてくると考えるだろう。

そんなことを期待しながら、ウェストサイドにある日本料理Shunjiを初めて訪れてみた。 手の込んだウニや、マグロのヌタ和え等の一品が出てくるのを予想する人がおそらく多いだろうが、寿司バーに座った僕の前に出されたのは、店主のするどい目利きによる新鮮な魚、そしてたっぷりの野菜料理の品々だった。

Shunjiは、ただの寿司バー(日本料理屋)ではない。


素麺瓜の田楽 蟹と海老、ホワイトアスパラガス添え

それはShunjiが、つつましやかな場所にあるからだけではない。カノガパークにある寿司屋、『ゴーズ・マート』はうらぶれた小規模のショッピングセンター内にあるにも関わらず、非常に質の高い魚を提供している。とんでもなく高い焼き肉店の『ととらく』は古めかしい70年代の照り焼きレストランのようなところでやっている。閉店した『銀座・寿し幸』は、かつてアメリカで最も高いレストランとして知られていたが、ファストフード店があふれるコリアンタウンの小さなモールで何年も営業していた。

ロサンゼルスの素晴らしい日本料理店の幾つかは、常に悪質な不動産が占領している。とても高価で、デザインに凝っているが、1、2年で閉店してしまうのが常だ。オーナーは、不動産ブローカーに資金を吸い取られるか、或は新鮮な魚に資金を投じるかなのだ。

それでも、ロサンゼルスの基準からしても、Shunjiは、刺身がたくさん出されるレストランとしてはとても変わっている。以前は『ミスター・シーソー・カリフォルニア・リブズ』があった場所で、外観は、まさにフリーウェイ10番の影にある巨大なチリボールのよう。トイレは外にある。駐車場から出るには溶接作業場を抜けなくてはならない。そして実は、この『チリボール』というのはかつて、大恐慌の真っただ中(1931年)に建てられたレストランの名前だったのだ。 その時代のお客は、ここがやがて鮑の肝や、イワシの切り身が出されるようなレストランになるなんて全く想像もしなかっただろう。

Shunjiは、中尾俊二の遊び場である。彼はスレンダーな白髪混じりの男性で、まるで古い小津安次郎の映画に出てくる家長のような風貌をしており、数十年以上、地元の熱狂的な寿司ファン達を魅了し続けている。彼は、ビバリーヒルズに構える、今や世界的な寿司レストランの帝王と言われる『松久』の創業時を支えた3人のシェフのうちの一人だ。また彼は、刺身を中心に出す日本食『朝寝坊』の創業者でもある。そこは長い間寿司を出さない寿司バーとして熱烈なファンがいる店で、いまだに、ロサンゼルスで最高の日本食店の一つである。 さらに彼は、短い間ではあったが、サンタモニカの『The Hump』と、『Tengu』でも重要な役割を果たした。このチリボールでの店を始めるまでは、ウェスト・ハリウッドで同じ名前の寿司屋でシェフを務めていた。チリボールはまるで俊二の自分の家(ホーム)のようだ。

右がオーナーシェフの中尾俊二。高級な寿司を準備している風景。

新鮮な日本からの本ワサビ、細くスライスされた自家製のガリ、更に、非常に手に入りづらい新鮮な柚子をあなたはShunjiで目にするだろう。また、中尾をソリストとして輝かせている店のスタッフ達の配慮にもあなたは気がつくだろう。 彼らからは中尾が日本に行き醸造を手伝ったという香り高い日本酒、『一期』をすすめられるかもしれない。

Shunjiでの基本的な値段は、他のハイエンドな寿司バーと同じよう、コースメニューのテースティングディナーならば80ドル。おまかせ、あるいは、もっと豪華なテースティングディナーなら120ドル以上になる。紙に書いてあるメニューや、きちんと黒板に書かれているメニューもあるが、その日、客が何を食べるのかは、毎朝市場から何を仕入れるか次第、そして俊二自身のふとした思いつき次第だ。


鯛の魚素麺 湯葉と雲丹、サマートリュフ添え

もしかしたら、煮野菜が対照的に添えられた、コリコリとしたクラゲ酢が最初にでてくるかもしれない。あるいは、シーソルト(海塩)が散りばめられ、軽く表面を炙った魚のフィレが添えられたもずく酢が最初かも。 そして、肉厚な帆立スライスの味噌和えや、生姜醤油がほんのりかかり三つ編みになった小肌、ラセン模様の湯葉の乗った、クリーミーなホームメイド胡麻豆腐が出て来るかもしれない。時には、鯛のすり身で作った魚素麺に雲丹と沢山のサマートリュフが添えられたマティーニグラスを俊二は作るだろう。

長皿には、軽くトーチで光沢された煮タコ、そして歯ごたえの良いホワイトアスパラガスチップやスパイシーきゅうりのピクルスが脇に添えてあるかもしれない。 或は別の時には、丸ごと蒸しアワビと洋風にアレンジされた品々:ブルーチーズの入った紫芋のお団子、手作りのおからのプロシュート巻き、日本の伝統的な和菓子の様な海老のさつま芋詰め、そしてユダヤのチョップドリバーを思い出させる小さなあん肝には1グラム以上ものキャビアが添えられ飾られている。

イカのイカスミ 雲丹 トリュフ和え 鶉の黄身を乗せて

あなたはおそらく、信じられない程贅沢な一品をサーブされるだろう。生のイカそうめんにイカスミと雲丹、黒トリュフを混ぜ、そしてその上に鶉の卵の黄身が浮かんでいる。それは真っ黒な海の中でひと際目立つ鮮やかな黄色だ。 半分程食べたら黄身を混ぜるようアドバイスされるだろう。そして実際その通りにしてみると。。。 全く違う一品に変身したように感じるだろう。

揚げだし桃太郎トマト豆腐

このシェフの一番人気の一皿は、シェフ自身が命名した『トマト豆腐』だ。小さい子が遊ぶブロックサイズまで濃縮したキューブ上のトマトは軽く味付けされ、香り高い出汁に浸かっている。中尾の寿司は最高だ — ほのかにマリネされたサーモンは格別な味で、素晴らしい魅力をもつダンジネスクラブロールにも動じない。— ここでは、寿司にお目見えしなくても十分おいしい料理を食べることができる。

シンプルな刺身のコースでは、黒鯛、あら、その他の白身魚の切り身が、日本やオーストラリアの海塩や、小さなポン酢しょうゆと一緒に出てくる。中尾は、あなたがほとんど気づかないあいだに、そっとあなたの皿に刺身を足していく。コースが終わるころには、あっという間にアカハタやアラ、チカメキントキという、日本の夏の清々しい味を味わっていることだろう。

仕入れた魚が日本から到着したばかりの日に店に行ったら、きっと中尾はつややかな金属製のアタッシュケースから刺身を取り出してくれるだろう。そのケースにはシーフードではなく、まるで原子力コードか何かがしこまれていそうだ。あるいは、冷蔵庫の上のネタケースやカウンターの下の冷蔵庫、アシスタントの手からそっと渡される。

素麺瓜田楽を作っている中尾シェフ

板前と客の間を阻むガラスのネタケースは無く、ちょっと戸惑いも感じるだろう。ビンナガやタイを最大限の味がでる程度まで焼き色をつける魔法の小道具のバーナーを使う彼を身近にみることができるだろう。ぱりっとした皮や焦げ目というのは、時には調味料の役割を果たしており、それがバーナーによって生み出されているということを多くの人は気づかずにいるだろう。

そして、さらに野菜料理の素晴らしいこと! まるで世界的な彫刻家のイサム野口のように、あるべき形に盛り付けがなされている。エンドウマメ、オクラ、ズッキーニ―、カボチャがもっとも野菜としての甘みを感じるところでちょうどよい塩梅に調理され、うっすらととろみのついただし汁の中に浸されている。天然もののタイが恭しくカウンターで調理されていることはあなたも容易に想像できるだろう。しかし人参でさえ、同じように大切に調理されているなんて、あなたは想像もしないだろう。